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サブchouchouの「シャンソン&ロック&映画鑑賞、そして百折不撓日記」
ペンタングル:PENTANGLE 『CRUEL SISTER』 1970年
2011年06月14日

美しくも残酷な物語★『二人の姉妹(THE TWA SISTERS)』あるいは『クルエル・シスター(CRUEL SISTER)』  

 私が初めて聴いたトラッドフォークのレコードはサンディ・デニーのソロ・アルバムだったと思います。でも、まだ「トラッドフォーク」という音楽世界のことなど微塵も知らない頃。フォーク・ミュージックというかフォーキーな調べ、繊細な美しいアコースティック・サウンドは既に好きでした。その起源はフランソワーズ・アルディだと思います。この作品は、ペンタングルの1970年4thアルバム『クルーエル・シスター(クルエル・シスター)』です。メンバーはジャッキー・マクシー、バート・ヤンシュ、ジョン・レンボーン、ダニー・トンプソン、テリー・コックスという強力な5人組。古くからの伝承バラッド、トラッドフォークの素材と新しさを融合させた「ペンタングル」独自の音楽世界を物語性を帯びながら、ラストの18分40秒に及ぶ大曲まで聴く者を魅了する名作です。  

 サンディ・デニーからフェアポート・コンヴェンションを知りました。80年代育ちの私は当時ニュー・ウェイヴというインディペンデントから続々と発表される音楽が大好きで、そんな中に「ネオ・アコースティック」というジャンルがありました。「ネオ」とあるのだから本家本元があるのだ!「それはどんな音楽だろう」と思ったものです。既に女性ヴォーカルを優先していた私には、悲しいかな、「ネオ・アコースティック」に女の子ヴォーカルは少ない状況でした。なので、新しく発売される作品と、70年代、60年代と遡って中古盤や再発盤のレコードも購入し、それらの新旧の音楽を平行して聴くようになってゆき、そんな流れの中で、ジャケ買いなのですが、ペンタングルの1stアルバム『ペンタングル』(再発盤レコード)にとても感動して、この『クルエル・シスター』で完璧にノックアウト!という状態となったのです。「美しいけれど悲しい調べ」というのはどんな音楽ジャンルでも私の好きなキーとなるようなのですが、このペンタングルの『クルエル・シスター』を聴いた折は、さらになにかゾクゾクするような「美しいけれど怖い」という印象を強く受けたのです。それは何故かと幾度も聴いているうちに、太古の伝承(バラッド)を元に作られた楽曲たちであること、そんな時空を超えた幽玄美のような世界に魅了されたのでした。そして、トラッド・フォークやフォーク・ミュージックをさらに好きになり今も継続中です。生音も電子音もそれぞれに魅力があるので、私はどちらかを贔屓することはないお気楽者リスナーです。  

 

 この絵はスコットランドの画家ジョン・ファエド(JOHN FAED:1819年8月31日~1902年10月22日)の『クルエル・シスター』です。上記の英国トラッドフォーク・バンドのペンタングルの歌と同名タイトル。私はジャンルをあまり意識せず女性ヴォーカルがいつの間にか大好きになり、今では愛好しているのだという自覚さえあります。少女愛好と無縁でもないのです。そんな中でトラッドフォークが好きになってゆきましたが、何と云ってもあの幻想とロマンの歌詞の世界とメロディに魅了されたからです。そのきっかけとなった曲がペンタングルだったのです。 ロマン主義とも無縁ではなく、美しくも残酷な伝承たちは遥か太古の時代から生き続けている。元来、神話や妖精物語が大好きなので今もまだまだ色々と読んだり鑑賞したり。フランシス・ジェームズ・チャイルド(FRANCIS JAMES CHILD:1825年2月1日~1896年9月11日)というお方の大偉業である『チャイルド・バラッド』の文献の日本語訳(全部ではないけれど)が全3巻として発行された折は飛び上がる思いで、今も机の片隅にいつも居るご本たち。この『クルエル・シスター』は『チャイルド・バラッド』の10番(チャイルド氏の名がリスト番号となっている)の『二人の姉妹(THE TWA SISTERS)』と題されたものと類似したお話。似たお話は、イングランド、スコットランド、アイルランド、ウェールズを中心にヨーロッパ各地までに及ぶ「バラッド集」は幾種類もの文献が存在する。私は特に研究家でもないので限られた手許にある資料を参考にさせて頂いている。

 姉妹物語が好きでもあるので、今日はこの絵に関連した『二人の姉妹(THE TWA SISTERS)』のことを。この絵の三人は、真ん中の騎士と向かって左の女性が姉で右が妹。この騎士は妹を愛しているのだけれど姉の妬みにより、可哀相に妹は姉の手によって川へ突き落とされて死んでしまう。姉は黒髪であることが強調されているようで、妹は金髪で白百合のような手で細い腰の美しい娘である。しかし、姉の手によって溺死してしまう。妹は浮いては沈み浮いては沈み水車の堰まで流れてゆく。粉屋が娘を見つけ、竪琴弾きが通りかかり、その娘の蒼い姿をみつめ泣く。竪琴弾きは娘の肋骨(ほね)で琴を作り、娘の髪で弦を張り、その竪琴を持ってお城にゆく。その音色は石の心も和らげ、その調べは人の心を悲しませる。お城に着き石の上においたその琴はひとりでに鳴り出すのであった。

琴がならした最後の音は
ビノリー ビノリー
「ひどいお姉様のヘレンにわざわいあれ」
きれいなビノリーの水車のほとり

引用:『チャイルド・バラッド』より

 「肋骨(ほね)で琴をつくり」、「髪で弦を張り」という現実的とも非現実的ともいえる表現について、ウィンバリーは「『二人の姉妹』は骨=魂の関係の証拠であり、娘の精霊が髪の毛に現れている」と述べている。なので、琴が妹の化身であるということでもあると、解説にあります。 「ビノリー ビノリー」のリフレインがまた不気味に美しいのですが、こうした伝承バラッドには詳しい舞台設定などは無く、淡々と突発的に物語が進んでゆくのも愉快です。黒い髪の姉は色黒のようであり、この時代「黒い」とか「黒」は不吉な、とか、野蛮、劣悪さの象徴とされていた時代。赤い髪もかなり酷い扱われ方をしてきたので、生来赤毛の私は身につまされる想いでもありますが、こうした伝承世界に有色人種に対する嫌悪は隠せない時代であったことも、長い歴史の中で考えさせられ学びとなると想っています。ちなみに、ペンタングルの歌の最後では、この残酷な姉は涙を流して終わりますが、バラッド詩の中では残酷な姉は妹の呪いの歌声(調べ)を聞きながら終えるのが通説のようです。

 

 

PENTANGLE / CRUEL SISTER